モダン開発の落とし穴『認知負荷』の正体――。複雑なエンジニアリング環境を救うIDP (Compass)の価値を一般家庭に例える
2026年04月14日
堀田実希 hotta
ここ2~3年、ソフトウェア開発の世界、とりわけSRE界隈でよく、
「社内開発者プラットフォーム(Internal Developer Platform )」
「社内開発者ポータル(Internal Developer Portal / Portal」という言葉を聞くようになりました。
どちらも略するとIDPなので紛らわしいですね、ちょっと整理してみます。
- 社内開発者プラットフォーム
アプリをビルド・テスト・デプロイして"実際に動かすための基盤"そのもの(クラウド、Kubernetes、CI/CD、IaC などを) - 社内開発者ポータル
その基盤の上で動くサービスやアプリを"サービス図鑑"のようにまとめて、「どんなサービスがあって、誰が面倒を見ていて、今どんな状態か」を見に行けるポータル
です。Atlassianが開発した Compass は後者、社内開発者ポータルあたり、複雑化したエンジニアリング環境を整理するためのツールです。
なぜエンジニアリング環境は複雑なのか?
エンジニアリング環境は複雑化した背景には、開発スピードと拡張性を求めて進められた「マイクロサービス化」と、それに伴う「開発ツールの爆発的増加」があります。
現代のエンジニアは、単にコードを書くだけではありません。Kubernetesによるコンテナ管理、複雑なCI/CDパイプラインの構築、セキュリティスキャン、クラウドコストの最適化など、把握すべき領域は広がる一方です。
この状況を「独身一人暮らし(モノリス時代)」から「子供+夫婦の3人家族(マイクロサービス化)」にたとえてみましょう。
かつての一人暮らし(モノリス開発)の時代は、すべてがシンプルでした。
ワンルームの部屋で、自分の食べたい時に食べ、洗濯機を回すタイミングも自分次第。どこに何があるか、次に何をすべきかは自分の頭の中だけで完結していました。
しかし、家族が増え、子供が生まれ(マイクロサービス化と拡張)、生活の規模が大きくなると状況は一変します。
| ひとりぐらし時代(モノリス開発) | 家族持ち時代(モダン開発・マクロサービス化) | |
|---|---|---|
| 管理対象 | 1人分の着替えだけ管理すればよかった。出張や旅行も自分で管理。 | 自分の子供の学校の準備、習い事のスケジュール、離乳食の献立、さらにはNISAでの資産運用(クラウドコスト最適化)や防犯対策(セキュリティスキャン)まで範囲が広がる |
| 高度な専門知識 | ただの掃除(コードを書く) | 全自動洗濯乾燥機やお掃除ロボットのメンテナンス(Kubernetes)、食洗機の洗剤選びや効率的な家事動線の構築(CI/CDパイプライン)など。最新家電(技術)を使いこなすための学習コストもバカになりません。 |
| 情報の分散と 「探しもの」の発生 |
自分の分だけ管理すればOK (お好みの管理方法でどうぞ) |
「先週届いた子供の予防接種の書類ってどこ?」「明日の持ち物は何だっけ?」と、家族間で情報が分散し、常に誰かが何かの「探しもの」をしています。 |
常に誰かが何かの「探しもの」をしている状態ーーーこれがエンジニアの「認知負荷」の正体です。
本来楽しみたかった『家族との団らん(本質的な開発活動)』の時間が、膨大な『名もなき家事(技術的な負債や運用のオーバーヘッド)』に奪われてしまっているのです。システムの規模拡大(家族持ち)に対し、管理手法が一人暮らしのまま(属人化・整理不足)であることが、現代のエンジニアを苦しめる「認知負荷」の正体です。
一人暮らしなら適当で良かったことが、家族を持つとそうはいかない。開発現場も同じです。
「社内開発者プラットフォーム」と「社内開発者ポータル」の違いを家庭で例えてみた
ここから先は、「Internal Developer Platform」と「Internal Developer Portal」を、一般家庭にたとえて整理してみます。
毎日の生活を支えているのは、キッチンや冷蔵庫、洗濯機、水道・電気といった"設備"と、「朝はこう動く」「週末はこう動く」といった 生活のパターンなどのルーティンです。
これはまさに 社内開発者プラットフォーム(Platform) にあたります。AWS や Kubernetes、CI/CD など、「実際にサービスを動かすための土台と、その上での標準的な進め方」です。
家庭の中には「ごはんを用意する」「洗濯を回す」「学校の準備をする」「予防接種を打たせる」「ゴミ捨てをする」「段ボールを片付ける」といった"家庭内サービス"があります。
- 誰が担当なのか(お母さん? お父さん? 子ども?)
- どの設備やサービスに頼っているのか(キッチン? 洗濯機? 生協? 配達サービス?学校の連絡アプリ?音楽サービス?)
- どんな手順で進めればスムーズか(チェックポイントやコツ)
が整理されていると、家族みんなが動きやすくなります。
この「家庭内サービスの一覧と、その周辺情報」をまとめて見せるのが、開発の世界では Compass = 社内開発者ポータル(Portal) の役割です。
\\チョット整理//
家庭内サービス(例:朝ごはんを作る)を支えるためのプラットフォーム(キッチンや冷蔵庫、水道・電気、生協などのサービス)があります。
そのうえで「誰が担当で、何を使って、どう進めるか」を"サービス図鑑"として見える化するのがポータルです。
『家族のルール』なき拡大の末路――。家庭(開発現場)がカオスに陥るとどうなるか
もしこの情報が、家族それぞれの頭の中と、その場しのぎの会話
「洗濯たまってるから時間ある人やっといて」
「今日のゴミ出し、やれたらやっとくわ(やらない)」
「お米なくなりそうだから、ECサイトのポイント還元が高い日に注文しといて(具体的な注文量や期日を伝えない)」
「暗くなってきたから誰かリビングのカーテン閉めといて(担当者指名しない)」
ーーだけで回していると、家庭はすぐカオスになります。
<カオスな家庭のシーン例>
- 「今日の晩ごはん、誰が用意するんだっけ?」が決まっておらず、気づいたら夜遅くまで誰も何も食べていない
- 子どもが体操服を出し忘れて、朝になってから洗濯開始。体育がある日なのに、持っていく体操服がない
- 「この用事、あなたがやると思ってた」というすれ違いから、責任の擦り付け合いに
それでも一般家庭は、「人数もやることもそこまで多くない」ので、サービスがなんとなく属人化しており、最終的には "誰かが頑張る"ことで無理やり回せてしまう 場合がほとんどです。
(健全ではないですが回せてしまいます)
ソフトウェア開発の現場ではどうでしょうか。サービスが数十〜数百、関わる人も数十〜数百人規模になると、
「このログイン機能ってどのサービスと紐づいているんだっけ?」
「このDBを止めたら、どのサービスとダッシュボードに影響?」
「この障害、どのチームが見るべき?」
を"誰かの記憶"と"チャットの会話"、そして目の前の Jiraだけで回すのは、ほぼ不可能です。
属人化と伝達漏れが積み重なり、「なんとなくカオスだけど、日々の火消しでごまかしている」状態になりがちです。
最近は AI に聞けば何かしら答えを返してくれます。
ただ、AI も結局は「どこかの情報源」をもとに推論しているだけなので、そもそも社内に サービス構成や責任の"正しい地図"がない状態 だと、AI の答えもあいまいになりがちです。
むしろ Compass のようなポータルでサービス情報が整理されているからこそ、AIが明確な根拠を持って回答してくれるようになります。
この『ファミリーの混乱』を解決するために必要なのは、高性能な家電(Platform)ではありません。誰が何をすべきか、どこに何があるかを全員が共有できる『家族の掲示板や共有カレンダー(Portal)』なのです。
開発者ポータルの家庭版があったら、何がうれしいか
ここで、「開発者ポータルの家庭版」があったとしたらどうでしょう。
- 「ごはん」「洗濯」「学校準備」といった"家庭内サービス"が一覧で見える
- それぞれに担当者、使う設備、必要な準備、気をつけるポイントが書かれている
- うまくいかなかった出来事(宿題忘れ、体操服洗い忘れ)も"トラブル履歴"として残り、次に気をつけることも記録されている
すると、
- 子どもは「学校準備」のページを見れば、自分で持ち物をそろえやすくなる(*ただしやれるかどうかはその子どもの素質による)
- お父さんは「冷蔵庫の中」と「夕食のリクエスト」を見比べれば、何をいつ作るか迷わずに済む
- 家族みんなが「家全体の担当マップ」が見えるので、負担の偏りにも気づきやすい
これが、開発組織における Compass のイメージです。
クラウドや Kubernetes、CI/CD などの 社内開発者プラットフォーム(Platform) の上で動く、サービスやアプリ、データパイプラインをカタログ化し、オーナー・ドキュメント・依存関係・メトリクス・ヘルス状態をひとまとめにする。
その結果、「誰が何を持っていて、どこで問題が起きやすくて、どこを改善すべきか」がチーム全員に見えるようになります。
一般家庭には、"人数の少なさと暗黙知"のおかげで不要だった「家庭版ポータル」。
しかし、エンジニアリング環境が複雑化した今の組織には、同じ役割を果たす Compass のような社内開発者ポータルが、もはや必須になりつつある──
それが、チームが Compass を必要とする理由です。
【まとめ】4月、新生活、オンボーディング。負担がひとりによってませんか?
4月から新しい年度が始まり、お子さんの保育園入園や小学校進学で、生活リズムがガラッと変わったご家庭も多いと思います。
そんな中で、
- 「最近、家の中が前よりバタバタしている気がする」
- 「気づくと、いつもお母さんばっかり段取りを決めている」
という感覚はありませんか?
もし心当たりがあるなら、それは 「家庭内サービスのポータル」がない状態で、暗黙知だけに頼っているサイン かもしれません。
開発現場でも同じで、サービスやチームが増えたのに、相変わらず "誰かの記憶とチャットのログ" だけで回していると、遅かれ早かれカオスに飲み込まれます。
家庭内サービスが一人に偏らないように意識するのと同じように、
開発組織でも、サービスと責任が見える化されたポータル = Compass を用意しておくことが、
チーム全体で健全にサービスを育てていくための第一歩になるはずです。
堀田実希 hotta
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