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リックソフトブログ

AI主導で ITSMは DSM(デジタルサービスマネジメント)へ進化するー運用限界を突破するパラダイムシフトの全貌

2026年09月24日

甲斐 博

リックソフト株式会社 海外事業部 General Manager

甲斐 博 Hiroshi Kai

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本稿は、ITSMの運用限界を感じている IT責任者・CIO、および全社的な AI活用推進を担う意思決定者に向けた提言です。「AIツールを導入したのに、組織は変わっていない」という問いをお持ちの方に、その構造的な原因と処方箋をお伝えします。

構造的な原因と処方箋

現代のエンタープライズ企業において、テクノロジーはビジネス運営を直接牽引する存在となりました。システムやユーザー、デジタルサービスが拡大し続けるにつれ、IT部門はますます複雑化するワークフロー、反復的な手作業、そして増加する社内からのリクエスト対応に追われて疲弊しています。CIOは人員を増やし続けることなく運用効率を高めることを求められており、一方で事業部門は ITへの依存度を下げつつ、迅速で透明性の高いサービスを期待しています。

AIは、文脈(コンテキスト)の理解、データ分析、改善案の提案、さらにはワークフローへの直接参加を通じて、新たなパラダイムを切り拓きます。ITIL 5の「価値の共創(Co-Creating Value)」「コンプレキシティ・ネイティブ(Complexity-Native)」「AIネイティブ(AI-Native)」の考え方と組み合わさることで、企業は ITサービスマネジメント(ITSM)の設計と運用方法を根本から再考することを迫られています。

ITSMからDSMへのパラダイムシフト

AIが人々の働き方とビジネスのあり方を根底から変えつつある今、ITサービスマネジメント(ITSM)の運用モデルだけが従来どおりでよいはずがありません。 これこそが、ITSMから「デジタルサービスマネジメント(DSM)」への不可避なパラダイムシフトです。

ITSMが「単なるIT部門の話」ではなくなるとき

ITSMは本来、IT部門が構造化され、一貫性があり、制御可能な形でサービスを提供できるようにするために作られました。インシデント管理、サービスリクエスト管理、問題管理、変更管理、資産管理、構成管理といったプラクティスにより、企業は属人的な運用を標準化・測定可能なプロセスへと転換することができました。

そのコアバリュー(本質的価値)は今も損なわれていません。しかし、ITを取り巻く環境は根本的に変化しました。

現代の企業は、数百ものアプリケーション、マルチクラウドプラットフォーム、CI/CDパイプライン、数千台のデバイス、そして社内外のユーザーに向けた無数のデジタルサービスを運用しています。1つのシステムにおけるわずかな変更が、他の多数のシステムに波及することもあります。一見シンプルに見えるリクエストであっても、背後では複雑に絡み合っており、IT、セキュリティ、人事、業務部門、事業部門間での横断的な調整が必要となる場合があります。

複雑性が増すにつれ、手動の引き継ぎ(ハンドオフ)に過度に依存した ITSMワークフローは、瞬く間に運用のボトルネックとなります。

  • ITチームメンバーの課題 : リクエストの分類、情報収集、ステータス確認、チーム間のチケット振り分け、進捗の更新など、定常的な反復作業に多大な時間を費やしています。 システムごとにデータが分断されているため、担当者は全体像を把握するために手作業で情報を繋ぎ合わせなければなりません。

  • CIOおよび IT責任者の課題 : 『人手で対応し続ける運用モデル』のスケーラビリティに限界が訪れています。サービスやユーザーの規模が拡大する一方で、業務量が人員数に比例して直線的に増加する場合、その運用モデルはコスト面・運用面で維持できなくなります。

  • 運用マネージャーの課題 : 状況の可視化が困難になっています。データが複数のツールに散在していると、サービス品質、運用のボトルネック、チームの負荷、あるいはSLA未達の根本原因を明確に把握することが極めて困難になります。

  • 事業部門のサービス利用者 :「難しい仕組みやシステムの裏側のことはいいから、とにかく早く対応してほしい」というのが本音です。

IT運用の課題

これが、サービスマネジメントを再定義しなければならない理由です。

ITSMから DSMへ:サービスの「管理」からデジタルサービスの「運用」へのシフト

DSMは、単に ITSMの対象をいくつかの非IT部門に拡大することではありません。真の変革は、企業がサービスをどのように定義し、それらのサービスをどのように運用するかにあります。

従来の ITSMは主に次の問いに焦点を当てていました: 「IT部門はどのようにサービスを提供し、サポートすべきか?」

これに対し、DSMはより広い問いを投げかけます: 「企業にとっての価値を共創するために、デジタルサービスをどのように設計・運用し、継続的に改善すべきか?」

従来型ITSMとモダンDSMの比較

項目従来型ITSMモダンDSM
中心思想 IT中心(IT-centric) ビジネス&サービス中心(Business & service-centric)
管理単位 チケット中心(Ticket-centric) サービス中心(Service-centric)
対応姿勢 事後対応型(Reactive) 事前予防・プロアクティブ型(Proactive)
ワークフロー 人手主導(Human-driven) 人とAIの協働(Human + AI)
データ構造 サイロ化されたデータ(Siloed data) 統合されたコンテキスト(Connected context)
プロセスの受け渡し 手動ハンドオフ(Manual handoffs) インテリジェントなオーケストレーション(Intelligent orchestration)
対象スコープ ITサービス(IT service) デジタルサービス(Digital service)
目指す成果 課題解決重視(Resolution-focused) 価値創出重視(Value-focused)

この違いは、ITIL 5の文脈において特に重要です。従来の ITILフレームワークはサービス提供の標準化と最適化を強く重視していましたが、現代のマインドセットは「価値の共創」を中心としています。サービスはもはや、IT部門からビジネス部門へと一方的に引き渡される静的な製品ではありません。テクノロジー、人、プロセス、データ、そしてサービス利用者間の継続的な相互作用を通じて、価値が共に創り出されるものです。DSMは、このマインドセットを企業の運用モデルに組み込むための実践的な手段として機能します。

自社の AIジャーニーは現在どの段階にあり、どこから始めるべきか?5段階で見る AI成熟度

企業がすでに ChatGPTや Copilotなどの各種AIツールを利用していたとしても、それだけで AIが自社のオペレーションを変革したとは言えません。逆に、導入している AIツールの数が少なくても、重要なワークフローに AIを深く組み込んでいる企業の方が、運用の成熟度が高い場合もあります。

この道筋は、以下の 5段階の AI成熟度レベルとして捉えることができます。

レベル1 - 認知(Awareness):探索と評価

この段階の企業は、AIの可能性を認識しているものの、コスト、セキュリティ、コンプライアンス、適用可能性の評価に留まっています。AIはまだ運用上の大きな変化をもたらしていません。このレベルでよく聞かれる問いは、「AIは本当に自社に適しているのか?」というものです。

  • フォーカス : 「AI導入実績」欲しさに、効果があるかもわからない使い方をやみくもに試すのではなく、現場が本当に困っている切実な課題と、AIで成果が出せるポイントを見極めること。

レベル2 - 活用(Active):広範だが断片的な AI利用

レベル2では、AIが日常業務の一部となります。社員はメールや報告書のドラフト作成、情報検索、ドキュメントの要約、データ分析、個々のタスクの支援に AIを活用します。 しかし、その導入効果は主に個別・個人的な利用に留まっています。明確なガイドラインや公式なワークフロー統合、測定可能な組織的インパクトがないまま、各従業員が異なるツールを使用している状態です。

  • 現状 : AIは社内に存在するものの、個々レベルの効率化にとどまり、まだ「組織としての能力」にはなっていません。

レベル3 - 運用(Operational):ワークフローへの AIの組み込み

ここが最も重要な転換点です。 AIは「外部の個人的な便利ツール」から、「運用ワークフローそのものに不可欠な構成要素」へと移行します。

システムが自動的に要約・分類・情報の整理を行い、おすすめの対応策を提示したり、必要な後続処理を自動で走らせたりします。 この段階から、解決時間の短縮、手作業の負荷軽減、SLA遵守率の向上、サービス品質の改善など、測定可能な具体的な成果が現れ始めます。

  • ポイント : レベル3は、変革の初期フェーズにある多くの企業にとって現実的な目標となります。レベル2からレベル3への架け橋となるのは、「ワークフロー設計」「データ品質」「AIの運用化」です。

レベル4 - システム統合(Systemic):実務負荷を担う AI

このレベルでは、AIは単に個人を支援するだけでなく、サービスチームの実質的な業務負荷を吸収し始めます。定義された一連のタスクを自律的に処理し、何段階もの作業手順をAIがまとめて実行し、最終判断や正式な承認が必要な場面でのみ、人間にバトンを渡します。

レベル5 - 変革(Transformational):企業運用のコアコンポーネントとしてのAI

最高レベルにおいて、AIはもはや個別プロジェクトとして導入されるものではありません。分析、意思決定、運用の高度化において機能する、企業横断的な能力となります。 ここでは、AIは単一のチームの作業を高速化するだけでなく、企業がサービスを設計し、リソースを配分し、ビジネス上の意思決定を行う方法そのものを根本から形作ります。

企業はどこを目指すべきか?

すべての組織が最初からレベル5を目指す必要はありません。プロセス、データ、ガバナンスが成熟する前にAIロードマップを立ち上げても、多額の投資に対して利用が進まないという結果に陥りがちです。

代わりに、まずはシンプルな問いから始めるべきです: 「自社の現在の能力に見合い、今後12か月間で最も明確な価値をもたらす成熟度レベルはどこか?」

現在「活用(レベル2)」から「運用(レベル3)」への移行期にある多くの組織にとって、AIを個人的なアシスタントから「実務の運用ワークフロー」へと移行させることが現実的かつ実用的な目標となります。

6Cフレームワーク:サービスマネジメントにおいて AIが担うべき役割の定義

AIの活用事例として、チャットボット、インシデント予測、ナレッジ自動生成、自動変更、AIエージェントなど、候補を挙げることは難しくありません。しかし、すべてのユースケースが同等の価値をもたらすわけではなく、伴うリスクも異なります。

効果的なアプローチは、AIの機能を6つの明確なカテゴリー(Creation, Curation, Clarification, Cognition, Communication, Coordination)に分類することです。 このフレームワークは、「AIは何ができるか?」という技術的好奇心をもとにしたアイデアを排し、「自社のサービスワークフローにどのようなAI能力を組み込むべきか?」という業務起点の問いに立ち返るのに役立ちます。

1. Creation(生成)- 文章の生成

既存のコンテキストに基づいて、AIが文章を作成するユースケースです。

  • 例 : インシデントの初報連絡文、変更計画、ロールバック計画、障害報告書(ポストモーテム)、ナレッジベース記事のドラフト作成など。

  • 価値 : 最終判断は人間が行うためリスクが低く、文書作成の工数を劇的に減らせるため、最も着手しやすい領域と言えます。

2. Curation(選別・整理)- データ品質のキュレーションと向上

AIは単に情報を増やすだけでなく、既存の企業情報の信頼性を高める役割も果たす必要があります。

  • 例 : 関連アラートのグルーピング、陳腐化したナレッジの検出、重複チケットの特定、複数のデータソースに分散した変更履歴の集約など。

  • 価値 : チャットボットや自律型エージェントに比べると地味ですが、データの品質にかかわる軽視できない領域です。データ品質は、後続するすべての AI機能の成否を直接左右します。

3. Clarification(明確化)- コンテキストの構造化と簡素化

多くの組織にとって理想的なスタート地点となります。

  • 例 : コメントが長くなっているチケット履歴の要約、専門用語の平易な表現への翻訳、断片化された情報の再構成、複雑なイベントチェーンの実践的なコンテキストへの変換など。

  • 担当者がチケット履歴の読み込みに何分も費やす代わりに、AIが即座に以下を回答します:
    ◦「何が起きているのか?」
    ◦「どのような対応が試みられたか?」
    ◦「どのシステムが関係しているか?」
    ◦「誰が影響を受けているか?」
    ◦「推奨される次のアクションは何か?」

  • 価値 : アクションを起こす前に人間が結果を容易に検証できるため、リスクを低く抑えつつ、短期間で業務上の価値を実感できます。

4. Cognition(認知・分析)- パターンの認識と高度な分析

この段階では、AIが運用データをより深く掘り下げ、パターン、異常、インサイトを特定します。

  • 例 : 類似した過去インシデントの特定、運用の異常検知、トレンド分析、ワークロード予測の支援など。

  • 前提条件 : AIに学習させる過去の実績データが正しく整理・蓄積されていることが大前提です。 土台となるデータが曖昧なまま、AIの予測を当てにした無理な数値目標を立ててしまうと、のちのち現場が混乱することになります。

5. Communication(コミュニケーション)- サービスインターフェースとしてのAI

ナレッジとサービスデータが十分に成熟すると、AIはユーザーとサービスの間の自然言語によるコミュニケーション層として機能します。 ユーザーはどの申請フォームを使うべきか、サービスカタログのどこを探せばよいかを気にする必要はありません。自然言語でニーズを伝えるだけで、AIが意図を理解し、コンテキストを取得して適切なサービスやワークフローへと誘導します。

  • 価値 : ユーザー体験を劇的に変革しますが、その成否は基盤となるナレッジリポジトリの品質と正確性に大きく依存します。

6. Coordination(連携・自律実行)- ワークフローとアクションのオーケストレーション

Agentic AI(自律型AI)の最も象徴的なレベルです。AIは理解、回答、提案にとどまらず、ワークフローを横断した実際のアクションを自律的に調整・実行します。

  • 例 : リクエストに必要なステップの特定、関連APIワークフローの呼び出し、完了までの実行監視など。

  • リスク管理 : このグループは最も高いリスクを伴います。AIに実行権限を付与する場合、明確な運用の境界設定、厳格なデータアクセス制御、高リスクなアクションに対する人間の承認チェックポイントの義務付け、確実なロールバック機能が必須となります。

正しい導入ステップ:Coordination(連携)ではなくClarification(明確化)から始める

多くの組織がここで過ちを犯します。経営層から真っ先に求められ、最も魅力的に見えるのは、AIに実行権限を与える「Coordination(自律実行)」です。しかし、これは最もリスクが高く、徹底したデータ整備、ガバナンス、組織的成熟度が要求されます。

費用対効果とリスクのバランスに基づき、推奨される実装順序は以下の通りです:

  1. まず Clarification(明確化)から : 最もリスクが低く、費用対効果が高い。導入コストが低く、現場がすぐに価値を実感できます。

  2. 次に Curation(選別・整理): 後続するすべてのグループのための「データ品質」を確立します。強力なCurationがなければ、Cognitionや Coordinationのアウトプットは信頼できないものになります。
  3. Creation(生成)と Cognition(分析): データがクリーンになり、プロセスが安定した段階で導入します。

  4. Communication(対話インターフェース): ナレッジリポジトリが検証・承認された段階で展開します。

  5. 最後に Coordination(自律実行): 以下の 4つの必須制御ゲートを設けた上で実装します:
    ◦ 項目ごとに承認されたクローズドなカタログに限定された明確なスコープ
    ◦ 高リスクなアクションに対する人間による承認の義務化
    ◦ 人間による完全なオーバーライド(強制介入)およびロールバック機能
    ◦ すべてのステップに関する完全な監査ログの記録

おわりに

Evolution of Digital Service Integration

自社の AI成熟度レベルを評価し、「6Cフレームワーク」を行動の指針として活用したら、まずは明確な課題があり、データが比較的整っており、測定可能な価値が得られる少数のワークフローから着手してください。 初期のユースケースで効果が実証されたら、より自律性が高く複雑な領域へと展開していきましょう。

これこそが、モダンITSMからモダンDSMへと移行するための現実的かつ実践的な道筋です。一度にすべてを変えるのではなく、AIを「人間の支援」から「ワークフローへの参加」、さらには「実務負荷の吸収」へと段階的に導き、最終的にデジタルサービス運用モデルの不可欠な一部にしていくのです。

リックソフトグループが提供するグローバル対応のデジタルサービスマネジメント・ソリューションのご提案

日本ではまだ全社的な AIシフトの事例は多くはありません。本ブログが AI活用を模索しているITSM担当者のヒントになれば幸いです。

リックソフトは、ベトナム・シンガポール・米国を拠点に、Atlassianに長けたコンサルティング人材を豊富に擁しております。日本語はもちろん、英語での対応も可能です。海外拠点を含めたグローバル規模での DSMシフトを支援いたします。グローバル拠点をカバーする ITSMツール選定・運用が課題で、DSM対応に関心がある方は、ぜひリックソフトにご相談ください。

*本記事は、リックソフトのベトナムパートナー企業BiPlus社のコンテンツを和訳したものです。https://biplus.com.vn/blog/itsm-to-digital-service-management-dsm-in-ai

本ブログのカテゴリ: エンタープライズIT事情inベトナム

甲斐 博

リックソフト株式会社 海外事業部 General Manager

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