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リックソフトブログ

生成AIの精度を上げても意味がなかった。業務フロー全体を自動化して初めて効果が出た話

2026年08月26日

AI・DX室

AI・DX室 dx

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生成AIを導入したのに、業務のスピードは変わらない----そんな状態になっていませんか? 検証は終わり、精度も悪くない。それでも現場の作業時間が減らない、というケースは少なくありません。

私たちも同じ壁にぶつかりました。そこで分かったのは、AIは"点"、業務は"線"で動いているということです。

結論から言うと、効いたのは生成AIの精度を上げることではなく、生成AIとロジック判定を使い分けて、業務フロー全体を自動化したことでした。

今回は、当社の事例を通じて何を変えたのかをご紹介します。

1. 出発点は「目視チェックをAIに任せて、承認を1つ減らす」

対象にしたのは、リックソフトの業務のうち、見積額のチェック業務です。

当社は Atlassian製品の販売パートナーです。「Atlassian製品ライセンスを購入したい」と希望されるお客様に見積書を発行するにあたり、見積額のチェックという業務があります。業務の流れは以下の通りです。

Step1 営業担当者が営業事務に見積を依頼する。
Step2 営業事務が Atlassian側の見積額(Quote)を取得する。
Step3 営業事務が自社の販売管理システムで見積書を作成する。
Step4 Step2と Step3の金額・製品明細が一致しているかを人が目視で突き合わせ、マネージャーが承認する。

ライセンス商談の見積は年間で約2000件あり、うち AIチェックの対象にできるものが半分程度ありました。1件あたりの承認までのリードタイムは、平均で30分かかっていました。

従来のフロー。最後に営業事務の目視チェックとマネージャー承認が入る

従来のフロー。最後に営業事務の目視チェックとマネージャー承認が入る

最初の設計はシンプルでした。目視で突き合わせていた部分を AIに置き換え、一致と判定されたものだけマネージャー承認をスキップする。これで承認が1つ消える、と考えていました。

当初の想定

当初の想定

2. 運用して分かった「AIの担当部分だけが爆速になる」

実際に回してみると、想定どおりにはいきませんでした。

まず、最初の課題として AIで一致判定不可のケースが想定よりも多く出ました。ライセンスのアップグレードで日割り計算が入る見積では判定が揺れました。とくに桁数の多い金額計算をAIに任せると、結果が安定しません。

また、当初は監査という観点を認識していませんでした。

「人が承認していた工程を AI判定に変える」のは監査対象の運用変更にあたり、内部監査室との調整が必要でした。仕組みを作るのと同時に、承認ルールそのものを変えなければ工数は減りません。

ここで分かったのは、人のチェックがゼロにならない限り、工数は思ったほど減らないということです。実運用では細かい業務(利益率算出、件名や備考欄の文言チェックなど)が多々あります。

AIに任せた「点」だけは速くなりますが、その前後の人作業がボトルネックに変わっていました。

3. 生成AIとロジック判定を、役割で分ける

そこで設計を変えました。業務全体を生成AIに任せるのをやめ、工程ごとに担当を分けたのです。実装はWorkatoで、1つのレシピの中に AIに判定させるステップとロジックで処理するステップを混在させています。

判断基準は「その処理にゆらぎがあるか」の一点です。

担当任せる処理理由

生成AI

PDFからの製品明細の読み取り、顧客名・製品名の突合、記載内容の妥当性チェック

表記ゆれ・レイアウト差があり、ルールで書き切れない

ロジック判定

小計の一致、利益率の算出、金額しきい値による承認ルートの判定、必要な割引の有無、件名・備考欄の形式チェック

答えが一意に決まる。AIに任せると不安定になる

判定はAI、計算とルール判定は自動化

判定はAI、計算とルール判定は自動化

計算と条件分岐を生成AIではなく Workatoのレシピでロジック判定に置き換えました。金額計算はロジックで処理すれば必ず合います。逆に、フォーマットの違うPDFから明細を拾う処理は、ルールで書こうとすると際限がありません。

あわせて、AIが読み取りに失敗しても判定が止まらないようにルール側を緩めました。例えば明細の突合は製品名ではなく製品ごとの識別番号で行い、その識別番号も2〜3文字の読み取り違いは許容しています。AI-OCRは「5」と「S」を取り違えます。それを前提にルールを組み、読み取り精度に運用を依存させないようにしています。

現場の操作は、チャットにPDFを添付するだけ

営業事務の手元では、チャットから見積チェック用のAIエージェント(Genie)を呼び出し、AtlassianのQuoteと自社の見積書の PDFを添付して依頼するだけです。判定結果はチャットに返り、同じ内容が Jira課題にもコメントとして記録されます。

見積チェック用のGenieを選び、2つのPDFを添付して依頼する

見積チェック用の Genieを選び、2つの PDFを添付して依頼する

営業から営業事務への見積依頼はもともと Jiraで運用しているので、記録が残る場所を変えていません。 新しい画面を覚えてもらう必要がないことは、現場に入れるうえで効きました。

Jiraへの通知結果のコメント

Jiraへの通知結果のコメント

4. 承認ルールを「マネージャー承認」から「代理承認」へ変える

仕組みを作っても、承認そのものは消えません。2章で書いたとおり、ここはルール側を変える必要がありました。

変えたのは2点です。

  • マネージャー承認の必須をやめて、社内稟議で承認を得たメンバーが代理承認する方式にしました。AIが一致と判定した見積は、この代理承認でそのまま次に進みます。
  • AIが一致と判定できなかった見積は、従来どおりマネージャー承認に回します。

内部監査の観点で必須なのは、人の承認を残すことです。承認を AIに置き換えたのではなく、AIが一次チェックを担保したうえで、承認する人を変えたという整理にしました。これなら承認の証跡は人の名前で残ります。

一方で、入ったばかりのメンバーは代理承認者にしないというルールは残しています。

この変更があって初めて、後述の承認工数の削減につながりました。仕組みだけを作っていたら、AIの判定結果を見たうえでマネージャーが承認する、という工程が増えるだけで終わっていたはずです。

5. 例外は都度対応せず、ルールに落とす

運用を始めると、必ず例外が出ます。私たちはこれを個別対応で終わらせず、その都度ルール側を直して恒久化しました。実際にやった改善を3つ挙げます。

① AIの限界を判定ルールの緩和で吸収する

契約期間の開始日が1日ずれるケースがあるため、1日のずれは許容と定義しました。

② 例外的な計算を、プロンプトのテンプレートにする

特定の掛け率で価格換算が必要な商品があります。これを担当者の記憶に頼らず、コピーして使えるテンプレートとして用意しました。

③ 判定結果の文言を6種類に決めて、次の行動が一意に決まるようにする

判定結果が「一致しました」だけだと、受け取った人は次に何をすればいいか迷います。そこで判定結果として出す文言を6種類に決めました。「代理承認で進めてよい」「マネージャー承認が必要」「利益率が基準を下回るので上位者の承認が必要」など、次にすべきアクションを示しました。

判定結果から次の行動が一意に決まることで、業務担当者が迷うことがなくなりました。

6. 運用2ヶ月の実測値

2026年6月12日の本運用開始から8月17日までの実測です。

指標実測値

AIチェックの実行回数

227回

AIが一致と判定した件数

190件

一致判定率

83.7%

見積提出までのリードタイム削減

95時間

承認工数の削減

15.8時間

読み方を2つ補足します。

① 実測しているのは件数で、時間は換算値です。 190件に、従来のリードタイム(30分/件)と承認工数(5分/件)を掛けています。またリードタイムの95時間は「待ち時間」の短縮で、承認工数の15.8時間は工数削減です。リードタイム短縮の価値は、営業が当日中に見積を顧客へ送れるケースが生まれたという商談スピード側にあります。

② 83.7%は「AIの正解率」ではありません。 実行227回のうち一致と判定したのが190回、という割合です。分母には、本来は対象外の見積に対して「金額チェック以外の項目だけ確認したい」という目的で実行したケースが含まれます。それらは必ず不一致になるので、対象見積だけで見た通過率はこれより高くなります。

7. 工数削減の外側で出た価値

運用全体を自動化したことで、当初は想定していなかった価値が3つ出ました。

本来受けられる割引の漏れを、仕組みで拾えるようになった

仕入価格の割引には、一定の条件を満たしており承認を得れば適用されるものがあります。承認済でも、その割引が見積(Quote)に反映されていなければ、利益はそのまま消えます。従来はこの運用ミスを人が気づくしかありませんでした。

見積チェックのフローに判定を組み込んだ結果、1ヶ月で4件を検知しました。うち1件は、承認済なのに見積へ反映されていないケースで、取りこぼすはずだった利益を、実際に1件防ぎました。残りの3件は、確認の結果いずれも「申請は不要」という結論でした。つまり誤検知ではないです。

利益額・利益率が自動で算出され、誰が承認するかが決まった

従来、見積の利益率は人が計算していました。今はチェックと同時に利益額・利益率が算出され、利益率が一定を下回る見積には自動でアラートが出て、上位者の承認が必須になります。

効いたのは計算の手間が消えたことより、責任の所在が決まったことです。利益率の低い見積を営業と営業事務のどちらが確認するのか、これまで曖昧でした。判定に組み込んだことで、誰が承認するかがルールとして固定されました。

属人化が解消され、新しいメンバーの教育がスムーズになった

3つ目は定性的な効果です。チェック基準が人の頭の中ではなくルールとして外部化されたため、新メンバーへの教育が進めやすくなりました。

教育途中のメンバーが作業しても、AIの一次チェックが品質の下限を保証します。

8. 残っている課題

きれいに終わった話ではないので、残課題も書いておきます。

  • チェック対象の金額上限: 現在は見積金額に上限を設けて運用しており、それを超えるものは人が確認しています。今の運用が問題なく回れば、上限はさらに上げられます。
  • チェック対象外の見積条件: 1年未満の契約で日割りが発生するものも人が確認しています。日割り計算チェックを実行してから見積チェックをすることで見積対象を増やせます。

9. おわりに

点をAIに置き換えて検証し、AIとロジックに分解し、前後へ広げる

点をAIに置き換えて検証し、AIとロジックに分解し、前後へ広げる

AIは「点」を爆速にしますが、業務は「線」で動いています。 ゆらぎのある処理は生成AI、答えが一意に決まる処理はロジック----この使い分けで工程を分解し、前後に広げていくのが一番早い進み方でした。

そして、線として自動化して初めて、工数削減の外側にある価値(利益の取りこぼし防止、承認責任の明確化、属人化の解消)が出てきます。

生成AIの検証で止まっている方は、精度を上げる前に、その業務の前後にどんな人作業が残っているかを書き出してみてください。

AI・DX室では、今後も社内の AI活用事例とその成果を報告していきます。

本ブログのカテゴリ: AI活⽤・業務改善事例
                    

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